2025.04.02
2025年度入学式 榊理事長祝辞(全文)
昨日までの冷たい雨から一転優しい陽光が降りそそぐ今朝、ソメイヨシノは満開を迎えようとしています。この愛知東邦大学へご入学された401名の皆さん、入学おめでとうございます。ご一緒にお越し下さったご家族の方々にも、お祝いを申し上げます。私は学園の理事長として、三つのことをお話しします。一つ目が学園の歴史、二つ目が私たちの大学が大切にしている学びの姿勢、三つ目が皆さんの成長を促すために一緒に歩んでくれる多種多彩な教職員の顔ぶれです。
先ず知っていただきたいのは、この学園の誇れるルーツです。大学は4年制となってようやく25年目ですが、学園としては大正時代の東邦商業学校から始まる102年の歩みがあります。また、創設者である下出民義先生は、江戸時代末期に大阪の泉州でお生まれになると、今の中学2年生に当たる歳で、なんと小学校を一人で任された、いわば校長先生でした。この天分とも思われる青年期の体験から半世紀、私財を投じて創設したのが、現在の東邦高校の前身となる東邦商業学校でした。実業家としては、現在の中部電力や名古屋鉄道など東海地域の産業発展の基盤作りに尽力し、大同特殊鋼を創業されました。衆議院議員と貴族院議員を務めた政治家でもありました。戦後はいち早く保育園を設けて、働く母親の支援をされました。
教育学部の新入生にとって、下出先生が自分たちよりも若い年齢で教師であったこと、経営学部の新入生にとっては、現在日本のモノづくりの中心である東海地方の基盤を作られたお一人だったことに、誇りを持って頂けたのではないでしょうか。
二つ目は、鵜飼学長が学びの姿勢として述べられた「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」が持つ意味です。
皆さんはなぜ愛知東邦大学を選ばれたのでしょうか。恐らく、自分が将来就きたい仕事に役立つ分野を学べる、といった理由が第一でしょう。ただ最優先の志望校だったでしょうか。同じ分野だったら、ほかに行きたい大学があったかもしれない。そのとき、何を判断基準にされたでしょうか。ズバリ「学力偏差値」ではありませんか。皆さんは小学校から高校までの12年間に様々な知識や考え方を学び、友人関係や課外活動等を通じて成長し、人格を培ってきた。それを学力テストという杓子定規のモノサシで序列化したのが、学力偏差値です。私は学力に基づいて順番を付けてみて、何の意味があるというのだろうかと、疑問に感じています。
皆さん、今日のこの時間を境にして、学力偏差値という呪縛から、完全におさらばしませんか。私たち大学はベストワンを目指すことに汲々とするより、オンリーワンへ自らを磨くことに価値を置いているからです。
そこで、「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」とは、こういう事なのかと分からせてくれる姿勢を、先輩学生の出版した本から紹介します。経営学部の上條憲二教授のゼミ生5人が最近相次いで電子出版した『Z世代にも ほどがある?』という本です。中でも国際ビジネス学科4年生の田出隆樹さんの書いた『ゲームばかりしていたらいつのまにかアジアでトップクラスになった話』と『不登校の哲学 義務教育について語る』を読むと、およそ模範学生とは真逆の、対極のような、親や先生なら顔をしかめそうな学校生活から生まれたことが分かります。田出さんは次のように綴っています。
「小学生の頃、『いってきます』、お母さんにそう告げて家を出た僕の行き先は学校ではない、家のマンションの最上階だ。何故かってそりゃあ、学校をサボるためだ。学校を行ったふりをしてマンション最上階で待機、お母さんが仕事に行ったのを確認して、少し様子見をしてから家に戻って夢のゲーム。生粋のサボり魔であった。そして、中高でも母親の真似、時間を調整して優しい先生に電話しながらサボり続けた。
僕が学校に行かなかったのはただゲームをしたかっただけではなく、何の為にやっているかわからないからだった。小中学校の授業で、意欲をもって学んだのは英語だけで、その他4教科はただ卒業する為だけにその場所にいただけだ。意欲的に学ぼうとする理由がそこには存在しなかった。」と。
さらに田出さんは、プログラミングの一つであるコーディングの楽しさにのめり込んで、こう語っています。「コーディングと、強制されてもやらない学校の勉強の違いは、何の為にやっているかわかるかどうかだ。ゴールの見えていないマラソンで、最初から全速力で走る者はいない。それが僕にとっての学校だった。コーディングは違った。最終目標が明確でそこ至るまでのマイルストーンのような小さい目標も点在していた。マラソンで言うと、全長何mかは把握出来ている。どちらが学びやすそうかは一目瞭然ではないか」。
そして彼は大学2年生の時、アジアの上位0.1%になります。当時数百万人にのぼったアジアのプレイヤー内で上位0.1%を超えるポイントを持ったそうです。
皆さんにゲーマーになろうと奨めている訳では決してありません。でも、何らか打ち込めるもの、のめり込んでオンリーワンをつかめる環境が、本学には整っていると思います。それを支えるのが、最後にご紹介する本学の教員です。
経営学部には、経営関係の研究者はもちろん、最先端の映像技術を駆使したり、海外で企業を率いてきたりと、多彩な実務家出身の教員もいます。出身国もアメリカ・韓国・ベトナム・ペルーと多彩です。研究分野も例えば、マイクロソフトやアマゾンに務めて、学習分析のAIアルゴリズムを研究している先生がいれば、小惑星を探査する「はやぶさ」のプロジェクトに参画して、文部科学大臣から表彰された理学博士もいます。
人間健康学部には、体操選手として活躍した経験を生かして体育教員の育成に当たる先生、睡眠について取り組む心理学の研究者、学生の地域活動後押しする先生など、ヒトの身体と心の健康だけでなく、社会の健康を幅広く学ぶことができる先生方がいます。また、高校においてサッカー部を幾度も全国優勝へ導いた先生もいます。
教育学部には、教員養成に必要な専門家がいます。児童福祉と社会的養護を担当する先生は、家庭に戻れば里親として何人もの子供を育てる立場ですし、造形表現と美術科教育を担当する先生は、ガラスで制作した作品が東京駅の近くに展示されるような創作活動を続ける方です。また、愛知県内の複数の小学校の校長を歴任し、教育現場の運営に熟知された先生もおられます。
こうした本学の教員は、厳しくかつ粘り強い指導を通じて、皆さんの良さ、可能性を引き出してくれるはずです。皆さんがこれからの4年間にオンリーワンをつかんで下さることを期待して、私からの祝辞とします。
2025年4月2日
学校法人東邦学園理事長 榊直樹