愛知東邦大学

2024.03.21

2023年度 学位記授与式 鵜飼学長式辞

 皆さん、ご卒業おめでとうございます。平和公園では、寒さの中で静かに美しく咲いていた梅の花から、春色に溢れ、活気と希望に満ちた桜の花へとその彩が移ろうとしています。本日、穏やかな日差しの下で、愛知東邦大学学位記授与式を開催できますことを心より感謝致します。
 ここに、経営学部地域ビジネス学科140名、経営学部国際ビジネス学科37名、人間健康学部125名、教育学部69名、総計371名の皆さんに学士の学位を授与致しました。ご臨席を賜りました東邦学園理事長榊直樹さまをはじめ、ご来賓の皆さま、列席の各学部長ならびに教職員一同、そして在学生と共に、皆さんが無事学位を取得されたことに心よりお祝いを申し上げます。
 また、遠く故国を離れ、愛知東邦大学で研鑽を積まれた留学生の皆さん、慣れない環境、習慣、言葉の壁を乗り越えて立派に卒業された皆さんの努力に敬意を表します。もとより、皆さんが今日あるのは、ご家族の物心両面での支え、皆さんを取り巻く様々な方々の理解と協力があったからに他なりません。感謝の気持ちを込め、ありがとう!今日はとくにそう声に出してみて下さい。
 はじめに、本年元旦に発生した能登半島地震では多くの方々が犠牲となられました。心より哀悼の意を表します。また、卒業生をはじめ本学の学生・教職員の中にも、ご家族や近しい人々が被災されておられると思います。今なお困難な状況に置かれていらっしゃる皆さまに対して、心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早く心安らかな落ち着いた日々が戻りますことをお祈り申し上げます。
 さて、本日卒業する皆さんの多くは、2020年4月、新型コロナウイルスのパンデミックが猛威を振るい始めた時に入学しました。少し振り返ってみて下さい。高等学校の卒業式に続き本学の入学式も中止のうえ、入った途端にいきなりの全国一斉休校措置。受ける側も、教える側も試行錯誤の中で始まったリモート授業だけが皆さんと大学を繋ぐ学生生活が長く続きました。
 大学生活の制約のみならず、人の移動、店舗の閉鎖、人が集まる機会、イベントなどが中止になるなど世界全体、社会生活自体が分断と閉塞の中にありました。きっと皆さんが大学に抱いていたイメージや期待とは大きく異なり、そして、何より皆さんが一番望んでいた開放感あふれる学生生活を送ることができずに、不安な毎日を過ごしたのではないかと思います。
 しかし、そのようなコロナ禍を乗り越え、皆さん、本当に頑張りました。制限された中でも、実習・演習などに力を注いて様々な資格を取得し、積極的にイベント・コンテストに参加し、課外活動に熱心に取り組んで輝かしい成果を上げ、そして、再開した和丘祭、学生会でもリーダーシップをとって学生を牽引するなど、各々に充実した学生生活を送ることができたのではないでしょうか。
 改めて、困難な状況を乗り越えた皆さんの努力と研鑽に心より敬意を表します。これらの経験、知識や技能、そして何より、直接会って話す機会や時間が自由にできない中でもお互いに絆を深めることができた友人たちは、これらは皆さんの大きな糧、支えになっていくものと思います。どうかそれらを大切に、そしてさらに深めていってもらいたいと思います。
 さて、私も皆さんと同じ年にこの大学に着任し、第二の大学人生をコロナ禍で迎えることになりました。いわば、皆さんと私は、愛知東邦大学で一緒にスタートラインにつき、本日、四年間のロングランを終え、次のステージへの新たなスタートラインに立っていると言えます。
 ところで、皆さん、四年間を振り返り、卒業後の自分の希望や夢を描くことができましたか?それらをかなえるための準備は整いましたか?思い描いた理想の自分に近づけましたか?“コロナ禍がなかったなら、もっといろんなことにチャレンジできたはず…。”など様々な思いがあると思います。
 私の場合は・・・、4年前を飛び越え、五十年ほど時計を巻き戻して振り返ってみましょう。私が大学に入学した1973年当時は、大学紛争の嵐が全国の大学で吹き荒れた直後で、学術の府としての大学に対するイメージは大きく崩れ、憧れにも似た期待感を持つことはありませんでした。ですから、一日も早く技術を身に着け、社会に出て働くことだけを考えていました。そのような、のほほんとした大学生活を送っていたとき、四年生になって転機が訪れました。研究室の恩師から“ Applied Optimal Control”というタイトルの一冊の本を渡され、制御工学という学問分野に出会ったことです。
 学部生の私には難解な本でしたが、様々な問題を数学的なモデルとして表し、数理的な手法を駆使して最適な解・制御方策を求める制御工学の魅力に取りつかれてしまいました。結局、その後、修士、博士と進学して研究者の道を選択し、大学教員として43年間過ごしてきました。
 その間にも、様々な出会いがありましたが、もしあの時、偶然ともいえる恩師との遭遇がなかったら、あるいは別の本だったら、全く違った人生を歩んでいたはずです。
過去を振り返り、皆さんより長く生きてきた経験から、確かなことがあります。それは、いくつになってもスタートラインは訪れるということ。出会いは何度でも訪れ、それに相応しい責任を負って人生は進んでいくということです。いましか出会えない人、モノ、出来事があり、その年代に相応しい機会に遭遇するということ。そうした出会いはチャンスでもあり、一つひとつ大切にして欲しい、そう強く伝えたいと思います。
 これは私の成功体験だけで申し上げているのではありません。失敗や後悔、反省もたくさんしました。だからこそ、自信を持って皆さんに伝えることができます。出会う人、出来事には、耳聡く、目聡くなっていただきたい。漫然としていると、ふわっと通り過ぎてしまいます。常にアンテナを広げ、今よりもっと“気づき”の感度を上げるだけで、遭遇するチャンスの色づきは変わってくるものです。
 では、過去から未来に眼を転じてみましょう。
 現在、人類の歴史は、これまでとは全く異なるフェーズを迎えていると言われています。さらなるAI、ロボットの進化は人間の知能・身体の模擬からやがて人間を超え、これまでの人類の進化とは全く異なる世界が来るのではないか? とくに、生成系AIの出現後、その普及と更なる進化は私たちの予測をはるかに超えています。SF作家アーサー・C・クラークは、「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」(“Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.”) と言っていますが、科学技術は、今まさに、魔法のように次々と世界を変えています。そのような時代に皆さんは社会へ飛び出していくのです。
 最後に、そんな未来社会において、皆さんの「気づきの感度を上げる」ヒントとなる言葉を紹介しましょう。AI、ロボット、DNAなどの出現に様々な警句を発してきた理論宇宙学者の故スティーブン・ホーキング博士が、未来に向けて書き残した最後の言葉を引用して締めくくりたいと思います。
「人はみな、すでに受け入れられていることや、決められていることの限界を押し広げて、大きな夢を持つ力がある。私たちはいま、すばらしき新世界の入り口に立っている。危険な面もあるにせよ、それは胸躍る世界であり、私たちはその世界の開拓者なのだ」
 「私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」((翻訳・青木薫)
皆さんにも、好奇心と探究心で気づきのチャンスを生かし、果敢にチャレンジする気概をもって未来に臨み、人生を逞しく切り開いていってもらいたいと思います。
 愛知東邦大学は、皆さんにとって4年過ごしただけの場所ではなく、いつでも皆さんが戻ってこられる場所です。卒業後も、同窓生としての交流の場として、また、新たな知識や技能の学び直しの場として活用してください。愛知東邦大学は、皆さんをいつでも歓迎し、そしてこれからも力強く支援してまいります。
皆さんの健闘、幸運を祈念しています。本日は、誠におめでとうございます。

                                       2024年3月21日
                                       愛知東邦大学長 鵜飼裕之

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