愛知東邦大学

2023.04.17

2023年度入学式式辞

 皆さん、愛知東邦大学にご入学おめでとうございます。本日、ここに、経営学部170名、人間健康学部111名、教育学部43名、ならびに経営学部3年次編入学生7名等の総計333名の入学を許可いたしました。ご臨席の東邦学園理事長、理事、監事ならびに列席の副学長、部局長をはじめとする教職員一同とともに、皆さんのご入学を心よりお祝いしたいと思います。そして、留学生の皆さん、愛知東邦大学にようこそ!一日も早く日本での生活に慣れ親しんでください。
 もとより、皆さんが、今日晴れて大学生としての一歩を踏み出すことができたのは、ご家族や恩師、友人たちの温かい支えがあったからに他なりません。ご家族ならびに関係の皆さまに大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。
さて、3年以上にわたって人類に多大なダメージを与え続けた新型コロナウイルスのパンデミックも漸く収束の兆しが見えてきました。今日の入学式では、皆さんにマスクの着用を求めずに行うことができました。
 私も、本学に着任して以来、初めてマスクを外して入学式に臨んでいます。何だか新鮮な気分です。しかし、皆さんは、新型コロナウイルスのパンデミックが日本に広がる2020年4月に高校生となり、からだもこころも子供から大人に変化する、人生で一番多感で、開放的な時期をコロナ禍の中で過ごしてこられました。
 非常事態宣言下での休校措置やクラスター発生による学級閉鎖などによって授業に遅延が生まれたり、慣れないリモート授業によって自宅での学習を余儀なくされたり、また、部活動などが思うようにできないなど、学校生活での制約に加えて普段の生活においても自粛を強いられる。将来に対する不安な気持ちを絶えず抱き続けて高校生の3年間を送ってこられた思います。
 その心中は察するに余りあります。しかし、そのような苦境の中でも、皆さん、本当に、よく頑張りました。息苦しさや辛い思いを抱えながらも、日々弛むことなく勉学に励み、部活動に熱心に取り組み、精一杯日々の生活を過ごし、そして、今日から大学生としての一歩を踏み出されました。皆さんの3年間の努力と熱意に教職員を代表して心より敬意を表します。

 さて、愛知東邦大学の母体である東邦学園は、今年、創立100周年を迎えます。100年前、蒸気から電気へと変わるエネルギー革命、第一次世界大戦、スペイン風邪のパンデミックという動乱の時代にあって、創設者である下出民義先生が、「現代社会の求むる着実なる実業青年を養成し以て社会的報恩の一端に資する希望の下に創立」するという強い意思でめざされた人材育成ビジョンが「真に信頼して事を任せうる人格の育成」です。その志、東邦学園の建学の精神を受け継ぎ、中部経済圏において地域社会に貢献し、グローバル社会で活躍する人材を育成することが愛知東邦大学の使命であると考えています。
 そして、100年後の現在、世界は再び大きな転換期を迎えています。社会が求める人材は多様化し、常に変化し続けています。皆さんは、将来を見据えて専門性と実践的なスキルの修得を期待して本学に入学されたのではないかと思います。しかし、専門的な知識・技能だけでなく、是非、大学時代に皆さんに身につけて頂きたいことがあります。それは、人間力です。人間は個体として生まれてきますが、取り巻く環境・社会の中で生きています。人間力とは、社会を構成し運営しながら、一人の人間として力強く生きていくための総合力です。そこで、今日は私の体験を基に、重要となるポイントを三つご紹介したいと思います。

 一つ目は現実世界から得る実感です。情報化社会の中で育った皆さんなら、知識と情報の収集については、持ち前の好奇心と粘り強さを発揮して、難なく乗り越えられると思います。しかし、個としてのオリジナリティ、他者とのコミュニケーション、コラボレーション、そうした人間に備わった感性の磨きについてはいかがでしょう。例えば、音楽。コンサートに足を運び、アーチストと同じ時間と空間を共有する。そうした体感、現実世界で得るリアルな情報は感性に厚みを増し、記憶に深みを与えます。それが個性を育み、人間力の深みにつながります。
 二つ目は共感する力です。現在のネット社会では情報さえあれば生活ができてしまう、ともすれば人間同士のつながりも情報を駆使してまかり通ってしまう。コロナ禍の中で私たちが経験した新たな社会の一面です。しかし、個が社会と関りを持つなかで、他者と感情、心を通わせて協働する、すなわち共感していく力の必要性はますます高まることでしょう。京都大学前総長で霊長類学者、ゴリラ研究で有名な山極寿一先生も「ゴリラは相手の目を見て感情を読み取れる。人間にもその共感能力があるのに、ネット社会の発達によって、対人関係が希薄になりその共感能力が減退しつつある」と警鐘を鳴らしています。グローバル社会では個人主義が強まっていますが、ひとたび人間社会という視点に立てば、他者を尊重しながらコミュニケーションを取り、共感力に加え直感力を働かせて様々な難題を乗り越えていく。今こそ、人間の持つ能力「共感する力」を発揮するときであると私は考えています。
 そして三つ目のポイントは、他者との差を見極め、そこから新たな価値を見出していく力です。日本映画の巨匠、黒澤明監督はこう言ったそうです。「アメリカ映画の西部劇に出てくる乾いた風と土埃、あのスケールに我々は到底敵わない。けれど日本特有の雨ならば勝負できる」と。黒澤監督は、雨のアクションシーンを多く使用し、“雨”といえば黒澤映画、と形容されるほど、世界的に有名となりました。風と土埃に代わる、雨という日本特有の気候にいち早く気づいて価値を見い出し強みに変えてしまう、その凄さに着目していただきたい。他者との差や自分自身の得手不得手を見極め、新たな手段を選び、新たな価値を創造していく・・・様々な専門分野が融合して新たな商品が生み出されていくビジネスのみならず、様々な世界にも通じるものがあります。

 将来の職業人としての知識や技能を身につけるだけでなく、現場感覚を身につけ、人と人との交流や信頼関係を構築し、ものごとを見極める目を養って人間力を磨いていくことが大切であると考えます。あらゆる分野に関心を持ち、見聞を広め、体験を重ね、つねに自分の考えを持って学生生活を過ごして下さい。多くの人と出会って交流を深めて下さい。長い人生の中で学生時代は、感性の引き出しを増やす絶好の機会です。皆さんが社会に出るとき、必ずやそれは皆さんの財産となり、人間としての器の大きさを物語ります。あいつなら何て言うかな、あいつなら任せても大丈夫・・・互いにそう思えたら、素晴らしいではないですか!
 愛知東邦大学は、皆さんの若いエネルギーと可能性を最大限に活かせる教育環境を整えています。自立した一人の人間として力強く生き、グローバルステージをめざす皆さんの意欲を、愛知東邦大学は全力で支援いたします。そのための環境作り、整備を惜しみません。予測不可能な時代を前にして、皆さんは、自ら進む道を切り拓いていかなくてはなりません。その道標となるのが諸先生方、先輩方の声です。柔軟に耳を傾けて下さい。険しい道を果敢に進んでいって下さい。その先にある扉を開くのは、ここにいる皆さんです!
4年間なんてあっという間に過ぎてしまいます。
 皆さん、愛知東邦大学での学生時代を思う存分楽しんでください。
                                  2023年4月2日       
                                  愛知東邦大学長 鵜飼裕之

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