愛知東邦大学

2022.03.18

卒業証書・学位授与式 鵜飼学長式辞(全学共通)

 本日はご卒業おめでとうございます。穏やかな日差しの下、今が見ごろの平和公園の梅は桜へと移り、もうすぐ一斉に花開いて皆さんの門出を祝うことでしょう。ここに、経営学部160名、人間健康学部106名、教育学部67名、総計333名の皆さんに学士の学位を授与致しました。ご臨席を賜りました東邦学園理事長ならびに関係者各位、列席の各学部長をはじめとする教職員一同、皆さんが無事学位を取得されたことに心よりお祝いを申し上げます。All international students from foreign countries! I would like to honor your great efforts encouraged by studying in AICHI-TOHO University while leaving your home countries far away and living in different language, culture and custom in Japan. Again, Congratulations! もとより、皆さんの今日があるのは、ご家族の温かい支え、友人の協力、世話になった教職員や先輩方の指導、助言があったからに他なりません。愛知東邦大学を代表して、ご家族ならびに関係の皆様よりいただいた、多大なご支援に対し、厚くお礼を申し上げます。皆さんも、感謝の気持ちを込め、ありがとう!今日はとくにそう声に出してみて下さい。
 皆さんが送った学生時代の半分以上は新型コロナウイルスのパンデミックの中でした。大学への入構制限、授業のリモート実施、部活動の制限、また、私生活でも行動制限を受けるなど、大変厳しい状況下でキャンパス生活を送られました。大学としても皆さんの支援のために様々な努力をしてまいりましたが、皆さんの健康と安全を最優先として、ときには厳しい対応を取らざるを得ない場合もありました。本日の卒業式も、感染予防のために午前午後の二部構成、出席者の制限などの制約の下でハイブリッド式の開催とならざるを得ませんでしたことをご理解いただきたいと思います。しかし、その様な苦境の中でも、皆さん、本当に、よく頑張りました。教職員一同、改めて皆さんの努力に敬意を表します。不自由な、辛い日々の生活の中で取得した知識や技能、限られた中での部活動やアルバイトなど貴重な時間を通して得た経験、そして何より、直接会って話す機会や時間が自由にできない中でもお互いに絆を深めることができた友人たち。これらは皆さんの大きな糧、支えになっていくものと思います。どうかそれらを大切に、そしてさらに発展させていってもらいたいと思います。
With Coronaの時代
 さて、2020年1月23日、中国武漢のロックダウンから既に二年以上経ちました。ワクチンの普及や治療薬の開発が進んでいますが、新型コロナウイルス感染拡大終息の見通しは、未だ不透明です。新型コロナウイルスのパンデミックは、高度に科学技術が発達し、グローバル化した産業社会において人類が経験するはじめての世界的危機です。人々は様々な制限の下、逼塞した日常を余儀なくされ、また、産業社会が受ける経済的なダメージは計り知れません。世界中で、科学技術を駆使した様々な感染防止対策、新たなワクチンの開発・普及が急ピッチで進んでいますが、一方で、新たなウイルスの変異も次々と出現し、謂わば、人類の英知とウイルスの進化との闘いの様相を呈しています。地球誕生以来の生物、人類とウイルスとの長い歴史を考えると、これからも人類はウイルスや細菌などと共存していかなければならない宿命にあると考えています。高度な科学技術を獲得して進化する人類とウイルスとの共存世界、まさにWith Coronaの時代が始まろうとしているのです。
 では、With Corona生活とはどんな社会なのでしょうか?メディアではよく「新常態」と言われていますが、「マスクを着けて、消毒して、フィルム越しに人とおしゃべりする」ことがWith Coronaの生活ではありません。「新常態」とは、人と人との関係性を本質から見直し、新たな生活スタイルを築くことであると考えます。
ウイルスの真の恐怖は、一言でいえば、人が人と繋がることによって感染が広がることです。すなわち、皆さんの家族、友人、恋人の命を守るためには距離をとらなければならないということです。とくに家族との付き合い方。私たちは成長するのに伴い、家族と一緒の時間が少しずつ減り、新たに社会で築いた人間関係の中で過ごすようになっています。学校、職場などが生活の中心となる場合もあります。しかし、感染防止対策のため家族とともに過ごす時間が急に増し、家族との関係、一緒と築くHomeとは何か?という問題を突き付けられたのです。これからの社会では、テレワークの導入やワークライフ・バランスが大切になってきます。このとき、Homeでの過ごし方、家族との関係を見直すことが求められます。皆さんも、自分のHomeに当て嵌めて考えてみてください。
 次に、科学技術の発展によってもたらされたLINEやSNSなど通信網を使った関係性の構築が人と人の関係形成に加わってきたことです。今後も科学技術の進化によって、リスクを回避しながら新たな関係性を築く手段・道具がどんどん登場してくると考えます。今は、MeetやTeams、LINEなど音声、文字、画像などを使ったリモート通信が一つの方法です。しかし、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス、すなわちメタバースなどという方法も既に登場しています。これからの私たちには、それらを賢く(スマートに)使いながらも、バーチャルではないリアルな付き合い方も含めて「互いに共感できる」関係を築いていくことが求められると思います。
このように、個人と個人との関係性、個人と社会との関係性が本質から問われる社会がウイルスとの共存社会なのかもしれません。皆さんも、自分にとってのWith Coronaを考えてみてください。

漕ぎ出す大海原
 ところで、皆さんがこれから漕ぎ出す“社会”を大海原に例えると、決して穏やかではありません。現在社会は、いま、約二百五十年前の産業革命から始まった産業社会、資本主義体系の一大転換点に直面して荒波の真っただ中にあります。
昨今の科学技術の急速な進展に伴って、世界は、ますますグローバル化、ソーシャル化、デジタル化のベクトル方向に急加速しています。一つの例として、自動車産業は100年に一度の大変革期にあると言われているように、今日、産業社会は一大転換点を迎え、社会全体も大きく変わろうとしています。その要因のひとつは、言うまでもなく、AI、データサイエンス、そして多様なセンサーとインターネットを活用するコネクテッド技術の急速な進展にあります。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表されるIT企業の台頭を、10年前には誰も予想できなかったように、変化のスピードは私たちの予想をはるかに超え、変化は瞬く間に世界に広がっていきます。これらの変化は、単に産業社会構造の転換のみならず、人々の価値観にも変化をもたらし、社会そのものの在り方を大きく変革していくことでしょう。まさに、イノベーションが渇望されている時代に直面しています。
 一方、産業・経済構造の変容や急激な社会変化は、国際関係にも新たな変化をもたらし、ときとして新たな国家間の対立にも発展してます。近年表面化している米中の経済・貿易対立は、単に経済的な軋轢に止まらず、世界を巻き込んだ政治・人権問題の対立、ひいては覇権争いにまで発展しています。さらに、連日メディアで報道されているウクライナへのロシア軍侵攻によって起きた地域戦争は、30年前に崩壊した東西冷戦構造を遥かに超えた世界的な規模でその影響が世界に広がっています。ここでも科学技術の発展によって開発された新兵器が投入され、被害は私たちの予想を超えて拡大しています。
 これらの例でみるように、皆さんは、これから、政治、経済、宗教、人種、科学技術など様々な要因が複雑に関係しながら急速に変化していく社会、時代で生きていくことになります。

「心の眼」と「しなやかさ」を
 このような複雑な社会を生き抜いていくうえで、皆さんに是非心に留めておいて頂きたいことが二つあります。
一つは、世界の急速な変化を見定め、その価値を見極める「心の眼」をもつことです。すなわち、ものごとを自ら判断するうえで、皆さんの心に確かな判断基準を備えておくことです。京都市立芸術大学学長、大阪大学元総長の哲学者、鷲田清一先生は、それを「価値の遠近法」という言葉で表現しています。すなわち、どんな状況にあっても、次の四つの基準、「一つ、絶対なくしてはならないものあるいは見失ってはならぬもの、二つ、あってもいいけどなくてもいいもの、三つ、端的になくていいもの、四つ、絶対にあってはならないもの。この四つを見分けられる判断力を身につけておくことが大切である」とおっしゃっています。その「心の眼」を養う術(すべ)が教養であり、哲学だと思います。社会に出れば、今よりもっと学びの選択肢は広がります。皆さんには大いに学びと遊びの範囲を広げてもらいたい。様々な経験は、価値観、世界観、そして人生観を育み、科学技術の進化を見極める力が自然に、着実に身についていくことでしょう。
 災害などで思い知らされるのですが、自然は人間の弱さを巧みに見つけ、つけいってきます。人間は弱さを見ることを苦手とする生き物ですから、強いものばかり追い求めようとします。しかし、弱さは悪いことばかりではありません。弱いところを知るからこそ強さの本質が見えてくるものです。皆さんがこれから遭遇する出会いには様々なリスク、落とし穴が潜んでいます。壁にぶつかって弱気になることもあるでしょう。そのようなときは、一旦立ち止まり、事態を見渡し、解決する糸口を見つける。時には一歩退いて態勢を整える智慧が必要です。また、自分の弱いところもよく見て下さい。そうして強さに弱さが融合すると、柔軟にたわむ“しなやかさ”になります。真の強さになります。
 「心の眼」と「しなやかさ」、この二つをいつも心の中に留め、新たな人生に臨んで頂きたいと思います。
 愛知東邦大学は、皆さんにとって4年過ごしただけの場所ではなく、いつでも皆さんが戻ってこられる場所です。卒業後も、同窓生としての交流の場として活用し、また、新たな知識や技能の学び直しの場所として活用してください。愛知東邦大学は、皆さんをいつでも歓迎し、そしてこれからも力強く支援してまいります。
 皆さんの健闘、幸運を祈念しています。本日は、誠におめでとうございます。

2022年3月17日
愛知東邦大学長 鵜飼裕之

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