愛知東邦大学

2023.04.17

2022年度 学位記授与式 式辞

 皆さん、ご卒業おめでとうございます。平和公園の桜も皆さんの門出を祝福するように咲き始めました。本日ここに、経営学部128名、人間健康学部113名、教育学部68名、総計309名の皆さんに学士の学位を授与致しました。
 ご臨席を賜りました東邦学園理事長ならびに関係者各位、列席の各学部長をはじめとする教職員一同、皆さんが無事学位を取得されたことに心よりお祝いを申し上げます。そして、遠く故国を離れ、愛知東邦大学で研鑽を積まれた留学生の皆さん、慣れない環境、習慣、言葉の壁を乗り越えて立派に卒業された皆さんの努力に敬意を表します。もとより、皆さんが今日あるのは、ご家族の物心両面での支え、皆さんを取り巻く様々な方々の理解と協力があったからに他なりません。感謝の気持ちを込め、ありがとう!今日はとくにそう声に出してみて下さい。
 さて、3年以上にわたって人類に多大なダメージを与え続けた新型コロナウイルスのパンデミックも漸く収束の兆しが見えてきました。今日の卒業式も、皆さんにマスクの着用を求めずに行うことができました。しかし、皆さんは長く続くコロナ禍の中で学生生活の大半の時間を過ごしてきました。
 大学への入構制限、授業のリモート実施、部活動やアルバイトの制限など、皆さんが大学に抱いていたイメージや期待とは異なり、決して満足のいくキャンパス生活ではなかったことでしょう。大学として、皆さんの健康と安全を最優先に考えながら、様々な支援に努めてまいりました、ときには厳しい対応を取らざるを得ない場合もありました。改めて、皆さんのご理解とご協力に感謝申し上げます。
 しかし、その様な苦境の中にあっても、皆さん、本当に、よく頑張りました。教職員一同、改めて皆さんの努力に敬意を表します。不自由な、辛い日々の生活の中で取得した知識や技能、限られた中での部活動やアルバイトなど貴重な時間を通して得た経験、そして何より、直接会って話す機会や時間が自由にできない中でもお互いに絆を深めることができた友人たちなど、これらは皆さんの大きな糧、支えになっていくものと思います。どうかそれらを大切に、そしてさらに深めていってもらいたいと思います。
 しかし、一方で、新たなウイルスの変異も次々と出現することが予測され、ワクチン開発と感染予防でパンデミックに臨んできた人類の英知とウイルスの変容との闘いこれからも続いていくことでしょう。
 地球誕生以来の生物、そして人類とウイルスとの長い歴史を考えると、これからも人類はウイルスや細菌などと共存していかなければならない宿命にあると考えています。DNAや免疫システムの解明など高度な科学技術を獲得して進化する人類と次々に変容するウイルスとの共存世界、それがwith coronaと呼ばれる時代です。様々な分断を体験した私たちには、自分と家族、自分と友人、そして自分と社会などの関係性を改めて問い直すことが求められています。皆さんにとってのwith corona社会での自分自身の生き方を見つけて頂きたいと思います。

 さて、皆さんがこれから漕ぎ出す“社会”を大海原に例えると、決して穏やかではありません。いま、約250年前の産業革命から始まった産業社会、資本主義体制、そして民主主義世界は大きな転換点にあって、現代社会はまさに荒波の真っただ中にあります。科学技術の急速な進展は、世界のグローバル化、ソーシャル化、デジタル化をますます加速させています。
 キーテクノロジーとしては、AI、ビッグデータ、ロボットといったところが代表的ですが、長年、工学の分野に身を置いてきた私から見ても、昨今のこれらのテクノロジーの進化は驚くべき猛スピードで起きています。
 例えば、AI手法の一つであるディープラーニングの基になったニューラルネットワークや機械学習の代表格であった遺伝的アルゴリズムなどは、限られた範囲でしか威力を発揮しない限定的な知能しかもっていませんでした。
 昨今流行のチャットGPTなどの会話型生成AIがこんなに早く出現するとは予想もできませんでした。また、大量のデータをリアルタイムで集積するために用いたセンサーは、ハードとソフトの両面において現在のレベルに比べると子供と大人程の開きがあります。ロボットに至っては、やっと立って歩きかけたヨチヨチ歩き程度の能力でした。今ではバク転までして見せるロボットも登場しています。
 変化のスピードは私たちの予想をはるかに超え、瞬く間に世界に広がっていきます。それは、単に産業社会構造の転換のみならず、人々の価値観にも変化をもたらし、社会そのものの在り方を大きく変革していくことでしょう。しかし、一方、グローバル化した時代においては、産業・経済構造の急激な転換は新たな国家間の対立にも発展しています。近年表面化している米中の対立は、単に経済的な軋轢に止まらず、世界を巻き込んだ政治・人権問題の対立、ひいては覇権争いにまで発展しています。さらに、ウクライナへのロシア軍侵攻によって起きた地域戦争は、世界的な規模でその影響が世界に広がり、先行きが見えない事態は世界的な不安定リスク要因となっています。

 このように、皆さんは、これから、政治、経済、宗教、人種、科学技術など様々な要因が複雑に関係しながら急速に変化していく社会、時代を生きていくことになります。そのような社会、時代を生きていくうえで、皆さんに、是非、心に留めておいて頂きたいことがあります。
 はじめに、一つの言葉を紹介しましょう。
 「キツツキの舌を描写せよ」
 レオナルド・ダ・ヴィンチが残したとされる言葉です。芸術家にして科学者、そして技術者にして軍事戦略家でもあった稀代の天才ダ・ヴィンチは、その生涯において膨大なメモを残しています。そのなかの「やることリスト」の一つがこの言葉と言われています。
この言葉は、元CNNのCEOであった伝記作家ウォルター・アイザックソンが著書「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の中で、最終章のタイトルとして印象的に引用した言葉でもあります。
 では、なぜ、ダ・ヴィンチはキツツキの舌に興味を持ったのでしょうか?キツツキは1秒間に平均20回、一日に12,000回も木をつつくと言われています。そのとき脳には1,000G以上もの力が加わるそうですが、脳震盪は起こしません。「なぜ?」ダ・ヴィンチの好奇心は、この「なぜ?」に向かいました。ダ・ヴィンチがその理由を調べたかどうかは分かりませんが、キツツキの舌は頭頂から一周して舌骨にぴったりとフィットし、まるでシートベルトのように頭を打ち付ける際の衝撃を吸収して守るからだと言われています。
 その他にも様々な現象に興味を持ち、詳細に調べ、その様子をスケッチやメモに残しています。とくに、人間の身体の持つ美しさ・神秘を解き明かすために描いた人体解剖図は数多く残されており、後世の医学者はその正確さに驚嘆したそうです。
 このように、ダ・ヴィンチは、溢れる「好奇心」に突き動かされ、様々な分野を飽くなき「探究心」をもって追求しました。それは、「モナリザ」の微笑みの中に万人を引き付ける謎となって後世の人々を引き付け、そして近代科学の誕生につながる様々な発想へと繋がっていきました。「キツツキの舌を描写せよ」。イマジネーション、イノベーションの源泉が「好奇心」と「探究心」の中にあることを象徴している言葉だと思います。
 AI万能が予想される時代、AIが人間を超える「シンギュラリティ」がまことしやかに喧伝されるなかにあって、人間にしか備わっていない「好奇心と探求心」。皆さんに、いつまでも身にまとっていただきたい心です。

 企業が採用にあたって最も重視している能力が「コミュニケーション力」です。実際、日本経済団体連合会が実施した新規採用に関するアンケート結果(2018年)によると、「コミュニケーション力」が82.4%で第1位、第2位の「主体性」や第3位の「チャレンジ精神」を大きく引き離しています。
 ここで企業が求める「コミュニケーション力」とは、職場の仲間や顧客と信頼関係を築き、チームとして協働することができる能力を意味しています。突き詰めれば、「相手の話を理解し、自分の考えを纏めて明確に伝え、そして、相手の気持ちを汲み取る」ことです。そして、それが他者との共感を育みます。いま、インターネット、VRなどのコネクテッド技術の急速な進展、そしてコロナ禍によって、人と人を繋ぐコミュニケーションの在り方は大きく変化しています。

 人間が授かった大いなる才能、それは共感する力です。
 これは、アカデミー賞俳優のメリル・ストリーブの言葉ですが、同様に、ゴリラ研究・霊長類学の第一人者にして京都大学前総長である山極寿一先生も、
「人類は高い共感力を獲得することで進化し、人間特有の社会を形成してきた。科学技術が発展した未来社会において、ますます私たちに求められる力が「共感する力だ」
とおっしゃっています。皆さんには、AI時代にも通用する様々なコミュニケーション力を磨き、そして「共感する力」を豊かに築いてもらいたいと思います。
「好奇心と探究心」、「共感する心」。人間にしかない「心」を大切にして新時代を歩んで行ってもらいたいと思います。
 愛知東邦大学は、皆さんにとって4年過ごしただけの場所ではなく、いつでも皆さんが戻ってこられる場所です。卒業後も、同窓生としての交流の場として、また、新たな知識や技能の学び直しの場として活用してください。愛知東邦大学は、皆さんをいつでも歓迎し、そしてこれからも力強く支援してまいります。皆さんの健闘、幸運を祈念しています。本日は、誠におめでとうございます。

                                   2023年3月23日
                                   愛知東邦大学長 鵜飼裕之

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